労災保険特別加入
事業主、一人親方、農業従事者等の方は、通常労災保険に加入することができません。
これらの方が労災保険に特別に加入するには、『労働保険事務組合』へ労働保険の事務処理を委託する必要があります。(労災保険法第33条)
労災保険は、業務上のケガや病気に対し、医療費が100%支給されます。
万一のときに備え、労災保険特別加入制度をご利用下さい。
| 区 分 | 従業員数 | 保険料 | 委託料(税込) |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 5人未満 | 別途試算 | 5,250円 / 月 |
| 5人から10人未満 | 別途試算 | 10,500円 / 月 | |
| 10人以上 | 別途試算 | 要 相 談 | |
| 建設業一人親方 | 25,540円~ | 31,500円 / 年 | |
| 農業従事者 | 別途試算 | 31,500円 / 年 |
※各区分の年間保険料については、別途保険料の試算を致します。委託料には、労災保険給付支給申請手続料を含みます。
事務処理を委託するその他のメリット
・年間の労災保険料の額に関わらず3分割できる。
・複雑で面倒な労働保険事務処理が無くなる。
・労災保険のほか、助成金や人事労務に関する情報が得られる。 etc・・・
(次のエリアにお住まいの方は、当労働保険事務組合へ加入することができます。)
| 中小企業 | 福島県、栃木県、茨城県、群馬県、埼玉県 |
| 建設業一人親方 | 農業従事者 | 福島県、栃木県、茨城県、群馬県、埼玉県のほか、その他の地域もあります。 |
労災保険とは?
労災保険は、厚生労働省が管掌する公的な保険であり、原則として労働者を一人でも雇えば強制加入となります。(労災保険法第3条)
そして、業務中や通勤途上に負傷した場合、健康保険は効きません。
これらには、労災保険でないと保険給付を受ける事ができないのです。
つまり、医療費の全額を事業主が負担する必要があるのです。
この事業主の責任を肩代わりするのが、労災保険です。
そして、経営者やその同居の親族、一人親方、農業従事者等は労災保険に加入する事ができません。
労災保険とは、本来労働者の為の保険だからです。
これらの方々が、労災保険に特別に加入する為には『労働保険事務組合』という特別な組合に加入し、労働保険の事務処理をその組合へ委託する必要があります。(労災保険法第33条)
労災保険の主な給付内容
療養補償給付
医療費の額に関わらず、全額が国から支給されます。(期間無制限)
休業補償給付
通院、入院等で仕事ができない場合、休業4日目より休んでいる間休業補償として補償日額の80%が支給されます。(期間無制限)
障害補償給付
体に障害が残った場合、その障害の程度に応じて年金又は一時金で支給がなされます。
遺族補償給付
万が一死亡した場合、残された遺族に対し年金又は一時金が支給されます。
葬祭料
死亡した方の遺族等へ葬祭料が支給されます。
参考:労災保険に関する判例等
札幌中央労基署長事件(札幌市農業センター)事件 札幌高判平元.5.8(労働判例541号27頁)
事実の概要
(1)札幌市の臨時的任用職員であった訴外労働者A が、就業終了後、退勤のため職場を出発した後、通常の通勤経路にある交差点に至ったが、その日の夕食の材料購入のため自宅と反対方向140m地点にある商店へ向かうために左折していたところ、同交差点から約40mの地点で自動車に追突され、即死するにいたったことにつき、このことが通勤災害にあたらないとした労基署長の処分の当否が争われた行政訴訟。
(2)事実関係
①訴外労働者Aは、女性労働者であり、共働きの夫婦及び三人の未成年者の子からなる家庭の主婦であった。
②夕食の材料等の購入のために、交差点から自宅とは反対方向への進行中の事故であった。
③原告らが労基署長による労働者災害補償保険法に基づく葬祭給付及び遺族給付の不支給処分の取消しを求めた行政訴訟である。
判旨:控訴棄却
(1)労働者災害補償保険法7条2項の「合理的な経路とは、労働者の住居と就業の場所との間を往復する場合に一般に労働者が採ると認められる経路をいうものと解され」るから、同条3項にいわゆる往復の経路を逸脱するとは、通勤の途中において就業又は通勤と関係のない目的で右の合理的経路をそれることをいい、同項にいわゆる往復を中断するとは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為をすることをいう」。
(2)「Aが就業場所と住居との間の通常の経路をそれたことは否定することができないし、また、その目的も、食事の材料等の購入にあって、住居と就業の場所との間の往復に通常伴いうる些細な行為の域を出ており、通勤と無関係なものであるというほかない」から、「本件災害は、同条3項所定の往復の経路を逸脱した間に生じたものと認めざるをえない」。
(3)「そして、本件における経路の逸脱はAの日常生活上の必要に基づくことが窺われないではないが、同条3項の文理上、労働者が往復の経路を逸脱した間は、たとえその逸脱が日常生活上必要な行為をやむをえない事由により行うための最小限度のものであっても、同条1項2号の通勤に該当しないことが明らかである」から、「本件災害は、労働者災害補償保険法7条1項2号所定の通勤災害に該当しない」。
横浜南労基署長事件(東京海上横浜支店)事件 最1小判平12.7.17(労働判例785号6頁)
事実の概要
(1)銀行の支店長付き自動者運転手Xのくも膜下出血が、発症前に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷がXの基礎疾患たる脳動脈りゅうをその自然の経過を超えて増悪させ、発症にいたらせたもので、業務に起因する疾病と認められた行政訴訟。
(2)事実関係
①Xは、くも膜下出欠発症の約半年前から、1日の平均の時間外労働が7時間を上回る非常に長いもので、1日の平均走行距離も長いものであったが、所定の休日は全部確保されていた。
②このような勤務の継続がXにとって精神的、身体的にかなりの負荷となり慢性的な疲労をもたらしていた。
③発症の前日から当日にかけてのXの勤務は、前日の午前5時50分に出庫し、午後7時30分ころ車庫に帰った後、午前11時ころまで掛かってオイル漏れの修理をして午前1時ころ就寝し、わずか3時間30分程度の睡眠の後、午前4時30分ころ起床し、午前5時の少し前に当日の業務を開始した。
④Xは、くも膜下出血の発症の基礎となり得る疾患を有していた蓋然性が高い上、くも膜下出血の危険因子として挙げられている高血圧症が進行していたが、なお血圧が正常と高血圧の境界領域にあった。なお、Xには、健康に悪影響を及ぼすと認められる嗜好はなかった。
⑤Xは、Y(横浜南労基署長)の原処分(労災保険法上の休業補償給付不支給処分)の取消しを求めた。一審はこれを取り消したたが、原審は一審を取り消した。
判旨:破棄自判(全員一致)
(1)「Xの業務は、支店長の乗車する自動車の運転という業務の性質からして精神的緊張を伴うものであった上、支店長の業務の都合に合わせて行われる不規則なものであり、その時間は早朝から深夜に及ぶ場合があって拘束時間が極めて長く」、「Xの業務の性質及び勤務態様に照らすと、待機時間の存在を考慮しても、その労働密度は決して低くない」。
(2)「Xの基礎疾患の内容、程度、Xが本件くも膜下出血発症前に従事していた業務の内容、態様、遂行状況等に加えて、脳動脈りゅうの血管病変は慢性の高血圧症、動脈硬化により増悪するものと考えられており、慢性の疲労や過度のストレスの持続が慢性の高血圧症、動脈硬化の原因の一つとなり得るものであることを併せ考えれば」、「Xの右基礎疾患が右発症当時その自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂を来す程度にまで増悪しているとみることは困難」であり、他に確たる増悪要因を見いだせない本件では、「Xが右発症前に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷がXの右基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、右発症にいたったものと見るのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる」から、「Xの発症した本件くも膜下出血は労働基準法施行規則35条、別表第1の2第9号にいう『その他の業務に起因することの明らかな疾病』に該当する」。
電通事件 最2小判平12.3.24(労働判例779号13頁)
事実の概要
(1) X1・X2がYに対し、Yの元社員Aが自殺したことは、AがYから深夜早朝に及ぶ長時間労働を強いられた結果うつ病に罹患し、自殺に追い込まれたとして、損害賠償約額約2億2200万円円を請求した労災民事訴訟
(2)事実関係
①訴外Aは、X1・X2はAの父母である。
②Aの自殺は入社約1年5か月後のものであった。
③Aは常軌を逸した慢性的な長時間労働に従事していた。
④原審では損害額の算定につき、民法722条2項に基づく過失相殺規定の類推適用が認められ、損害額が減額されていた。
判旨:破棄差戻(全員一致)
(1)「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険」がある。「労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、…同法所定の事業主は労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めている」のは、かような危険が発生するのを防止することを目的としているから、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」を負い、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行なう権限を有する者(上司)もかような注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきであるから、Aの業務遂行とうつ病罹患による自殺との間の相当因果関係を認め当該注意義務を怠ったとした原審は相当である。
(2)「過重な業務負担を原因とする損害賠償請求でも、損害の発生・拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を斟酌することができる」が、労働者の性格は多様であるから、「ある業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても」、かような事態は使用者として予想すべきものである。「使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督をおこなう者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができる」のであるから、「労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできない」。
大分労基署長事件(大分放送)事件 福岡高判平5.4.28(労働判例648号82頁) 事実の概要
(1) Aが出張先の宿泊施設内の階段で転倒し、頭部を打撲し、急性硬膜外血腫により死亡したことが、業務災害に該当するか否かが争われた事案。
(2)事実関係
①Xの夫であるAは死亡時、大阪放送の技術部局長として勤務していた。
②本件事故は、出張中の出来事であり、第1日目の作業終了後の宿泊施設内でのものであった。
③Aは、宿泊施設内で同行の者らと夕食をとり、飲酒をした。
④Y(大分労働基準監督所長、被告、被控訴人)はXの労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付等の支給申請に対して不支給処分とし、大分労災保険審査官は審査請求を棄却し、労働保険審査会は再審査請求を棄却した。
⑤XはYの原処分の取消しを求めたが、原審は業務遂行性については認めたが業務起因性を認めず、Xの請求を棄却した。
判旨:原判決取消し
(1)「労働者の死亡が業務上の災害によるものと認められるためには、災害が労働者の業務遂行中に業務に起因したことの要件(業務遂行性及び業務起因性)が存在することを必要」であり、「業務遂行性の有無は災害時に労働者が労働関係上において現に事業主の支配下にあるか否かによって定められるべきである」から、労働者災害時に具体的業務に就いていたことは必要ではない。
(2)「業務起因性の有無は、災害と業務との間に相当因果関係があるか否かによって定められる」が、「労働者が具体的業務行為あるいはこれに付随する行為を行なうなどしていて災害が発生した場合には、反証のない限り、それが業務に起因して発生したものと事実上推定される」。
(3)「本件事故が発生した時点において、Aがなんらの恣意的行為に及んでいたことを示す証拠はなく、…Aは、本件事故当時、他の3名が寝入るのを待って自らも就寝すべく、暫時宿泊室の外で時間を過ごし、その間2階をぶらつき、トイレに行ったりなどした後、宿泊室に戻ろうとして、いったん本件階段を3階へと昇ったが、2階のトイレのサンダルを履いていることに気がついて、2階へ降りようとした際に、足を踏み外して転倒し、本件事故に至ったものと推測するのがほぼ事実に符合するのではないかと考えら」れるから、「本件事故は、Aが業務とまったく関係のない私的行為や恣意的行為ないしは業務遂行から逸脱した行為によって自ら招来した事故であるとして、業務起因性を否定すべき事実関係」はなく、「本件事故については、それが宿泊を伴う業務遂行に随伴ないし関連して発生したものであることが公認される」から、「業務起因性を否定するに足る事実関係は存しないもので、Aの死亡は、労災法上の業務上の事由による死亡にあたる」。
大石塗装・鹿島建設事件 最1小判昭55.12.18(労働判例359号58頁)
事実の概要
(1)Y1社(元請企業)が、訴外B社から請負った転炉工場建築工事のうちY2社(下請企業)に下請けした鉄骨塗装作業にY2社が亡Aら数名を従事させていたところ、亡Aが地上31mの鉄骨塗装作業中、地上に落下し、死亡したことについて、X1~X7がY1社およびY2社に債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償を請求した労災民事訴訟
(2)事実関係
①訴外Aは、X1・X2はAの父母であり、X3・X4・X5・X6・X7らは亡Aの弟妹である。
②1審判決は、Y1社が雇傭契約の内容として、Y2社はY1社との下請契約の内容として、それぞれ亡Aに対して、安全保証義務を負うことを認めたが、亡Aの墜落は亡Aの過失に起因するものであるとして、Y1社、Y2社の債務不履行ならびに不法行為責任を否定し、X1~X7の請求を棄却した。
③控訴審は、社外労働者に対して注文者が安全保証義務を負うことについて、「労働者が、法形式としては請負人(下請人)と雇傭契約を締結したにすぎず、注文者(元請負人)とは直接の雇傭契約を締結したものではないとしても、注文者、請負人間の請負契約を媒介として事実上、注文者から、作業につき、場所、設備、器具類の提供を受け、請負人が組織的、外形的に注文者の一部門の如き密接な関係を有し、請負人の工事の実施については両者が共同してその安全管理に当り、請負人の労働者の安全確保のためには、注文者の協力並びに指揮監督が不可欠と考えられ、実質上請負人の被用者たる労働者と注文者の間に、使用者、被使用者の関係と同視できるような経済的、社会的関係が認められる場合には注文者は請負人の被用者たる労働者に対しても、請負人の雇傭契約上の安全保証義務と同一内容の義務を負担する」と判示し、Y1社およびY2社の安全保証義務を肯定した。
④控訴審は、Y1社およびY2社が安全保証義務を尽くしたと解するのは相当ではないとしたが、他方で、事故発生の状況から亡Aにも5割の過失があるとして、その限度で、X1・X2の請求は認容された。
2 判旨:一部棄却、一部破棄自判(全員一致)
(1)「亡Aには、本件損害の発生につき少なくとも5割の割合をもって過失があると認められる旨の原審の判断は、正当として是認することができないものではなく、原判決に所論の違法はない」。
(2)「債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、民法412条3項によりその債務者は債権者からの履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥る」。
(3)X1・X2らは子である亡Aを失ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料を求めているが、X1・X2らが「雇傭契約ないしこれに準ずる法律関係上の債務不履行により固有の慰謝料請求権を取得するものとは解しがたい」。
三共自動車事件 最3小判昭52.10.25(判例時報870号63頁)
事実の概要
(1)Yの整備工であったXが、昭和42年6月、作業中に被災し、脳挫傷等の重症を負い、同45年5月、Xが外傷性分裂症状および外傷性痴呆となり退院見込みなしと診断されたことについて、Yに対して、民法715条および同717条に基づき、逸失利益および慰謝料支払を求めた事案
(2)事実関係
①1審において、Yは、Xが支給を受けまたは今後受けるべき労災保険法に基づく長期傷病補償給付金および厚生年金法に基づく障害年金はX主張の逸失利益から控除されるべきであると主張。
②1審および原審は、Xが即死した。労災保険および厚生年金から既に支給を受けた保険給付についても、その現在価値を算出して、これをXの逸失利益から控除すべきであるとしている。
判旨:上告認容、原審および第1審判決変更(全員一致)
(1)「労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであって、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によって生じた場合において、受給権者に対し、労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法84条2項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは、衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価格の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である」。
(2)「そして、右のように政府が保険給付をしたことによって、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額から控除することを要しないと解するのが、相当である(最高裁昭和50年(オ)第431号同52年5月27日第3小法廷判決(民集31巻3号427頁登載予定)参照)」。
小野運送事件 最3小判昭38.6.4(判例時報338号5頁)
事実の概要
(1)第三者行為災害につき、加害者の使用者(Y)と被害者(B)の間で示談が成立したところ、労働者災害補償保険の保険者たる国(X)が所定の保険給付額から示談金を差し引いた残額を給付するとの見解に基づいて、Yに労働者災害補償保険法20条(現12条の4)を根拠に保険給付金相当額の賠償(求償)を求めた事案
(2)事実関係
①使用者Aの職員であったBが使用者Yの従業員Cの運転する貨物自動車に衝突され、右大腿骨骨折等の傷を負ったことにつき、労災保険の保険者たるX(国)がBに対して保険給付を行ったところ、BはYとの間で、右事故につき自動車賠償保険法に基づく給付金のほか、慰謝料、治療費等の支払いを受け、その余の損害賠償請求権を放棄する旨の示談が成立していた。
②第1審は、被災労働者は、国から保険給付を受けた後に国に帰属すべき第三者に対する損害賠償請求権を放棄できない公法上の義務を負うているから、第三者と示談契約をしても、これをもって国に対抗できないという見解のもとにXの請求を認容した。
③控訴審は、和解等による請求権放棄の契約は私法上の権利の処分として有効であり、この場合国が取得すべき損害賠償権は消滅するから、その結果として当該第三者に対し求償権を取得しない、という見解のもとに、Xを敗訴せしめている。
判旨:上告棄却(全員一致)
(1)「労働者が第三者の行為により損害をこうむった場合にその第三者に対して取得する損害賠償請求権は、通常の不法行為上の債権であり、その災害につき労働者災害補償保険法による保険給付が付せられているからといって、その性質を異にするものとは解されない」から、「他に別段の規定がないかぎり、被災労働者らは、私法自治の原則上、第三者が自己に対し負担する損害賠償債務の全部又は一部を免除する自由を有する」。
(2)「労災保険制度は、もともと、被災労働者らのこうむった損害を補償することを目的とするものであることにかんがみれば、被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務の全部又は一部を免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れるべきことは、規定をまつまでもない当然のこと」である。
(3)「補償を受けるべき者が、第三者から損害賠償を受け又は第三者が負担する損害賠償義務を免除したときは、その限度において損害賠償請求権は消滅するのであるから、政府がその後保険給付をしても、その請求権がなお存在することを前提とする…法定代理権の発生する余地のないことは明らかである。補償を受けるべき者が、現実に損害賠償を受けないかぎり、政府は保険給付をする義務を免れず、したがって、政府が保険給付をした場合に発生すべき右法定代理権を保全するため、補償を受けるべき者が第三者に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄しても、これを持って政府に対抗しえないと論ずるがごときは、損害賠償請求権ならびに労災保険の性質を誤解したことに基づく本末転倒の論というほかない」。
(4)「もっとも、以上のごとく解するときは、被災労働者らの不用意な、又は必ずしも真意にそわない示談等により、これらの者が保険給付を受ける権利を失い、労働者の災害に対し迅速かつ公正な保護を与えようとする労災保険制度の目的にもとるがごとき結果を招来するおそれもないとはいえないが、そのような結果は、労災保険制度に対する労働者らの認識を深めること、保険給付が労災保険法の所期するように迅速に行われること、ならびに、損害賠償債務の免除が被災労働者らの真意に出たものかどうかに関する認定を厳格に行うこと、(錯誤又は詐欺等も問題とされるべきである)によって、よくこれを防止しうるものと考えられる」。
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